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名古屋地方裁判所 平成元年(モ)1081号 判決 1990年8月31日

申請人 ヒューマンライフ株式会社

右代表者代表取締役 松村章司

右訴訟代理人弁護士 林光佑

同 堀龍之

同 大津千明

被申請人 株式会社ほっかほっか亭総本部

右代表者代表取締役 田渕道行

被申請人 株式会社関西ほっかほっか亭

右代表者代表取締役 青木達也

右二名訴訟代理人弁護士 高田昌男

主文

一  名古屋地方裁判所平成元年(ヨ)第一二三六号仮処分申請事件について、同裁判所が平成元年一二月二五日になした仮処分決定を認可する。

二  訴訟費用は被申請人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請人

主文と同旨

二  被申請人ら

1  名古屋地方裁判所平成元年(ヨ)第一二三六号仮処分申請事件について、同裁判所が平成元年一二月二五日になした仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という。)はこれを取り消す。

2  申請人の申請をいずれも却下する。

3  訴訟費用は、申請人の負担とする。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  (当事者)

申請人は、弁当店を経営するとともに、被申請人株式会社ほっかほっか亭総本部(以下「被申請人総本部」という。)との間で締結した後記地区本部契約に基づき、愛知県及び岐阜県下におけるフランチャイズ権を独占的に有し、その権限の下で、契約を締結した加盟弁当店(以下「加盟店」という。)を管理、総括する株式会社、被申請人総本部は、弁当店の経営において、「ほっかほっか亭」の商標権と持ち帰り弁当の製造販売業務のノウハウを基礎として、フランチャイズ組織を形成する管理事業者である。

2  (被保全権利・地区本部契約の締結)

(一) 申請人は、被申請人総本部との間で、昭和五六年二月六日、申請人が、被申請人総本部から、地区本部の地位を与える旨の契約が口頭により締結された。

(二) 申請人は、被申請人総本部との間で、昭和五八年一二月二一日、左記のとおり、申請人を被申請人総本部の地区本部とする旨のほっかほっか亭地区本部契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(1) (地区本部の権利範囲)

被申請人総本部は、申請人に対し、双方が諒解したテリトリー内で本契約に従い、ほっかほっか亭地区本部を設立することを許可する。

同時に、テリトリー内に展開する直営店に、ほっかほっか亭の名称とマークを使用させ営業させる権利、もしくは、テリトリー内の加盟店希望者に対して、個別にフランチャイズ権を与える権利を与える。

(2) (地域)

申請人の地区本部としてのテリトリーを、愛知県、岐阜県、三重県とする(三重県については昭和五九年五月二三日付で一部解除。)。

(3) (申請人が、被申請人総本部に対して支払う金員の内容及び金額)

ライセンス料 金一〇〇〇万円

ノウハウ使用料 一店舗について 金二〇万円(支店の場合は金一〇万円)

ロイヤリティ 一店舗について 一か月金一万五〇〇〇円

(4) (契約期間及び更新)

本契約の有効期間は、昭和五八年一二月二一日から同六三年一二月二〇日までとする。

本契約の更新については、契約期間満了の一八〇日前に、本契約当事者双方より、特別の申出のない限り、自動的に更新するものとする。

(5) (原状回復)

本契約の終結に伴い、申請人は、申請人とほっかほっか亭システムを何らかの形で関係づける全てのトレードマーク、サービスマーク、シンボル、トレードネームの使用を停止し、本契約終結と同時に、申請人の費用において取り片づけるものとする。

(6) (権利の承継)

本契約の終了時において、申請人の加盟店に対する権利は、被申請人総本部において、自動的に継承するものとする。

(三) 被申請人株式会社関西ほっかほっか亭は、右契約締結時において、被申請人総本部を連帯して保証する旨約した。

(四) しかしながら、被申請人らは、本件契約は終了したとして、申請人の本件契約上の地位を争っている。

3  (保全の必要性)

申請人は、日々継続した事業活動を保持することによって、はじめてその企業実体を保持することができる。申請人は、地位確認請求の本案訴訟を提起したが、本案判決まで事業継続が許されない場合、以下の事態が生ずることは避けられない。

(一) 旧来の「ほっかほっか亭」のサービスマーク等が全て使用できなくなり、またその取り外し措置まで必要となるため、膨大な経済的損失が発生する。

(二) 申請人は、加盟店組織と人的経済的に離反させられ、仮に本案訴訟に勝訴判決を得たとしても、サブフランチャイザーとして、再起不可能となる。

(三) スーパーバイザー・経理スタッフは休眠化し、申請人の形成してきた人的機構は壊滅する。

(四) 地区本部たる申請人と食材供給業者との契約関係が中断、消滅するため、申請人は、加盟店の使用する大量の食材供給の媒介機能が果たせなくなる。

(五) 研修用、試験用各店舗を、収益用店舗に転換する必要が生じ、将来再度試験用店舗に転換を図らなければならなくなる。

他方、被申請人総本部は、フランチャイザーとして、ライセンス料、ロイヤリティ、加盟料を地区本部から収受できれば、深刻な不利益はない。

よって、申請人が仮処分による仮の地位を得る必要性は極めて大きい。

4  以上により、申請人は、本件契約に基づく、地区本部としての地位を保全するため、仮の地位を定めるとともに営業妨害禁止等を求める仮処分申請をなしたところ、本件仮処分決定を得たので、その認可を求める。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1は認める。

2  同2(一)は否認し、2(二)ないし(四)は認める。

3  同3は否認する。

三  抗弁

1  (更新拒絶による契約の終了)

(一) 被申請人総本部は、申請人に対して、本件契約の期間満了の一八〇日前の昭和六三年六月一六日、本件契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした。したがって、本件契約は、期間満了日である昭和六三年一二月二〇日の経過をもって終了した。

(二) 仮に、更新拒絶に更新を拒絶せざるを得ないやむをえない事由を必要とするも、右更新を拒絶するについては、以下のとおり、やむをえない事由がある。

(1) (加盟店の経営主体の変更の未報告)

申請人は、本件契約に基づき、被申請人総本部に対して、加盟店の経営主体が変更した場合には、その旨報告する義務を負う。しかしながら、申請人は、加盟店の経営主体が変更したにもかかわらず、被申請人総本部に対し、右事実を報告する義務を懈怠した。経営主体が変更した加盟店のうち、申請人が右報告義務を懈怠した加盟店、変更前後の経営主体、変更年月は左記のとおりである。

店名 経営主体 (前主→後主) 変更年月

① 矢場町店 (有)合力 →清水温 昭和六二年四月

② 本山店 森なつ子 →真野康男

③ 内田橋店 (有)合力 →(株)三貴 同六〇年一〇月

④ 六番町店 (株)太閤 →(株)ファイブハート 同六一年四月

⑤ 岡崎店 東和産業(株) →深津敬 同六三年七月

⑥ 下之一色店 (株)太閤 →(有)ムラオカエンタープライズ 同六一年六月

⑦ 同 (有)ムラオカエンタープライズ →(株)ファイブハート 同六一年六月

⑧ 同 (株)ファイブハート →(株)三貴 同六二年一月

⑨ あじま店 更谷光夫 →安藤一郎 同六二年一二月

⑩ 瀬戸新郷店 (有)創八 →白田利男 同六二年一一月

⑪ 向島店 伊藤実 →古橋敏雄 同六二年八月

⑫ 滝子店 畔柳鉄兵 →福島一 同六三年五月

⑬ 千代田橋店 申請人 →(株)ファイブハート 同五九年一〇月

⑭ 同 (株)ファイブハート →(有)ムラオカエンタープライズ 同六一年六月

⑮ 同 (有)ムラオカエンタープライズ →(有)イシグロ 同六二年九月

⑯ 同 (有)イシグロ →山田清子 同六三年一〇月

⑰ 加納店 申請人 →達良信

⑱ 伝馬町店 申請人 →森正勝

⑲ 江南駅前店 申請人 →(株)なかりゅう 同六三年九月

⑳ 下前津店 申請人 →清水温 同六二年四月

(2) (ノウハウ使用料の支払義務懈怠)

申請人は、被申請人総本部に対して、前記①から⑳までの、加盟店の経営主体変更に伴って発生するノウハウ使用料(③、④、⑦、⑧、⑬、⑭、⑯、⑲、⑳については各一〇万円、その余については各二〇万円)合計三一〇万円を支払わない。

(3) (申請人のほっかほっか亭からの独立の画策)

申請人は、「弁当マン」の名称で、独自に弁当店チェーンを設立し、東海地区のほっかほっか亭加盟店に対して、ほっかほっか亭チェーンから離脱し、これに参加するように働きかけた。

2  (契約の解除による終了)

(一) 申請人が被申請人総本部に対してなした、前記(1)から(3)までの行為は、本件契約当事者間の信頼関係を破壊する行為である。

(二) 被申請人総本部は、申請人に対して、昭和六三年一〇月一七日、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実中、更新拒絶の意思表示に関する事実は認める。本件契約のような継続的契約の更新の拒絶には、これを終了させることをやむを得なくするような事由を必要とする。

2  同1(二)(1)の事実のうち、⑨(あじま店)、⑩(瀬戸新郷店)、⑫(滝子店)の各加盟店の経営主体の変更の事実について、申請人が、被申請人総本部に対して報告しなかったことは認め、その余は否認する。

すなわち、①(矢場町店)、③(内田橋店)、④(六番町店)、⑦⑧(それぞれ下之一色店)、⑪(向島店)、⑬⑭⑮⑯(それぞれ千代田橋店)、⑲(江南駅前店)、⑳(下前津店)の各加盟店の経営主体の変更については報告済みである。

また、⑤(岡崎店)の加盟店の経営主体の変更は、昭和六三年一〇月であり、申請人は、被申請人総本部に対して、その旨報告済みである。

さらに、②(本山店)、⑥(下之一色店)、⑰(加納店)、⑱(伝馬町店)の各加盟店については、その経営主体に変更はない。

なお、⑨(あじま店)、⑩(瀬戸新郷店)、⑫(滝子店)の各加盟店の経営主体の変更の事実については、申請人は、昭和六三年一〇月一日に、被申請人総本部に対して、その旨報告した。

3  同1(二)(2)は争い、同(3)の事実は否認する。

4  同2(一)の事実は否認し、同2(二)の事実は認める。

5  本件契約の更新拒絶には、次の理由からやむを得ない事由は存在しない。

(一) 加盟店の経営主体の変更の未報告及びこれに伴うノウハウ使用料の支払義務については、前記のとおりわずか三例でノウハウ使用料は合計六〇万円に過ぎないところ、右未報告は故意に基づくものではなく、その額も、七年余にわたる従前の契約継続期間中申請人が被申請人総本部に対し納付した納付金一億一一三七万余円に対し極めて小額である。

また、被申請人総本部は、申請人にノウハウ使用料の未納付があることを一年以上も前に覚知していたにも拘らず、その是正を一度たりとも求めることをしないで放置し、突然更新拒絶の通知を発するという行為にでたものである。

(二) 独立の画策は、被申請人総本部による更新拒絶により、申請人の企業としての存続が危機に瀕したため、申請人代表者松村が思いついたものに過ぎず、事前に周到な準備があったものではなく、かつ一時的なものであり、具体的な行動には至っていない。

第三証拠《省略》

理由

第一被保全権利

一  申請の理由1(当事者)、同2の(二)(申請人、被申請人総本部間の本件契約の存在及び内容)については当事者間に争いがない。

二  契約期間の満了について

被申請人総本部は、本件契約は右申請の理由2(二)(4)の定めに従って昭和六三年六月一六日付でなされた右被申請人の更新拒絶の意思表示によって同年一二月二〇日をもって終了したと主張する。

一般に契約の存続期間の定めがなされた場合には、契約は右期間の満了をもって終了するのが原則であり、フランチャイズ契約といえども直ちにこの例外とすべき法律的根拠はない。

しかしながら一方フランチャイズ契約は、様々の営業領域において利用され、且つ契約内容も多種多様であって一定の標準が存在するとはいえない契約形態であり、期間の定めのある場合には、その間にフランチャイジーが営業権使用許諾を得るためにフランチャイザーに支払った対価を回収しようとすることは合理的期待として保護されるべきである。従って期間の満了によって契約終了と主張される場合にも、期間の経過の一事によって契約は終了するものではなく、前記フランチャイズ契約の実情、フランチャイジーの保護の見地から期間の長短も含めて特約の内容を各契約の成立の経緯、内容も合わせ考えることによって検討するのが相当である。

これを本件についてみると、契約期間の特約は、申請の理由2(二)(4)のとおり契約成立の日から五年間とし、期間満了の日の一八〇日前に当事者双方から特別の申出のない限り自動更新される旨定められている。また本件疎明資料によれば次の事実が一応認められる。即ち

1  申請人代表者松村章司は昭和五四年にいわゆる脱サラとして被申請人総本部の加盟店となったが、妻と努力した甲斐あって翌年末には三店の弁当店を持つに至っていた。この頃右松村は被申請人総本部の代表者田渕道行にすすめられて東海三県即ち愛知、三重、岐阜の三県のほっかほっか亭の経営管理を受託するべく、昭和五六年二月六日、右田渕道行及び被申請人株式会社関西ほっかほっか亭の代表者である青木達也の支援も得て名義変更前の申請人即ち株式会社ほっかほっか亭名古屋事業本部を設立した。当時申請人が統括していた加盟店は直営店も含めて一〇店であった。これによって申請人は活躍の範囲を拡大し、昭和五八年末には直営店、加盟店は八三店となった。

昭和五八年一二月頃、申請人代表者松村は、自己が主宰する弁当店株式会社合力に前記名古屋事業本部の田渕らの持株を買取らせる形で申請人を名実共に自己が主宰する会社とし、同時に同年一二月二一日被申請人総本部と本件契約を締結した。

この間の申請人の売上及び資産の額の増加は、昭和五六年に名古屋事業本部を設立した頃と比べ、売上額並びに固定資産の額は共に一〇倍にもなっているが、この頃はじめて固定負債も負うに至っている。同様にして加盟店申込収入は約四倍、ロイヤリティ収入は約九倍となっている。

本件契約成立後、申請人代表者松村は、更に事業意欲を強くし、サブフランチャイザーとして加盟店を専門に研修させるための直営店(清水店)を設置したり、弁当店の利益を更にあげるため色々の形の併設店を試みたり、多大な宣伝費用を支出したりしたが、利益は順調に増大し、昭和六二年には売上が一六億六六〇〇万円余となった。

2  本件契約によれば、被申請人総本部は地区本部にテリトリー内の加盟店に対するフランチャイズ権を与えるのみでなく、販売促進等事業拡大のためのノウハウを習熟させる義務を負い、同時に地区本部は被申請人総本部がほっかほっか亭システムを拡大するためにうちだす新商品の導入、商品の提供方法、仕入先等の変更改善に関する指導に従う義務を負い、同時にテリトリー内の加盟店にこれを導入させる義務を負っている。

3  のみならず毎年年度始めに、被申請人総本部は、加盟店の拡充、メニューの開発等、フランチャイズチェーンの今後の発展を図るために、申請人ら各地区本部に対し、当該年度の営業計画を提出させ、その達成状況を毎月本部長会議において検討し、申請人ら各地区本部に営業努力を求めるなど、被申請人総本部は地区本部たる申請人の業務遂行に深く関与していた。

4  契約内容によれば、契約終了により地区本部の加盟店に対する権利は被申請人総本部に自動的に承継されることになっている(第一二条二項)ところ、被申請人総本部は全国に三〇の事業本部、地区本部を有するが、従来五年の期間満了で終了した地区本部はない。

右に認定した本件契約成立の経緯、内容を総合して判断すると、本件契約においてはフランチャイジーたる申請人は、単に被申請人総本部の有する商標等を対価を払って使用するフランチャイジーにとゞまらず、テリトリー内のフランチャイズ権を授与されることによって、ほっかほっか亭システムを拡大するというサブフランチャイザーとしての責務を負うといういわばフランチャイザーたる被申請人総本部と一体となって活動することを互に承認し合った関係と認められる。従って、本件契約の終了に関する特約もこの点から考察すると自動更新に重点を置いた規定と解すべく、五年の期間は契約の継続も含めその内容を再検討すべき期間と解するのが相当である。よって特約によって一八〇日前に申出ることによって自動更新しないで契約を終了させるには、当事者双方の公平の見地から判断してこれを継続し難いやむをえざる事由が必要であると解すべきであり、かく解したとしても、更新後の期間の解釈次第で契約関係を不当に永続させるような結果は十分避けることができる。

以上の次第であるから期間満了による契約終了をいう抗弁1(一)は採用することができない。

三  やむを得ざる事由の存否について

当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。

1  申請人が、被申請人総本部に対して、加盟店の経営主体の変更について、速かにその旨報告する義務を懈怠したのは、①(矢場町店)、③(内田橋店)、④(六番町店)、⑦⑧(それぞれ下之一色店)、⑪(向島店)、⑭⑮(それぞれ千代田橋店)、⑳(下前津店)、⑤(岡崎店)、⑨(あじま店)、⑩(瀬戸新郷店)、⑫(滝子店)の各加盟店計一三件であり、⑬⑯(いずれも千代田橋店)、⑲(江南駅前店)の三店については、報告義務の懈怠は疎明されたとは認められない。

2  申請人が被申請人総本部に抗弁1(二)(2)のノウハウ使用料の支払義務を怠ったのは、同被申請人主張にかかる二〇件の内経営主体の変更の認められない②(本山店)、⑥(下之一色店)、⑰(加納店)、⑱(伝馬町店)の分を除外したその余の一六件の使用料合計二三〇万円である。

3  抗弁1(二)(3)のほっかほっか亭からの独立の画策については、申請人代表者松村が、独自に弁当店チェーンを設立するため、加盟店の一部に対して、働きかけたことについては、《証拠省略》により一応認めることができるけれども右独立のための行動は、被申請人総本部からの本件契約の更新拒絶という予想外の事態に直面した申請人代表者が周章狼狽のあまりとった行動であり、非計画的かつ一時的なものにとどまっていた。

4  被申請人総本部で全国の地区本部の運営及びフランチャイズシステムの管理をする業務をしていた訴外光成新平は、昭和六二年九月までの加盟店の経営主体の変更について、正規の手続による報告のなされていないことを、フランチャイズ会員リストの作成によって更新拒絶の意思表示をする以前に既に覚知していた。これに対し申請人は右未報告は故意になしたものではなく、被申請人総本部から指摘があれば、その是正、ノウハウ使用料の支払を速やかになす意思を有していたにも拘らず、同被申請人はこの点にはふれず、毎月一回開かれる本部長会議も更新拒絶の意思表示のなされた前日である昭和六三年六月一五日に申請人代表者の出席も得て正常どおり行った。

以上1ないし3の事実を4で認定した事実に対比して判断すると、加盟店の経営主体の変更に関する報告義務の懈怠の件数は一三件、ノウハウ使用料の支払を遅滞した額は二三〇万円にも及びその件数、金額は軽微なものとはいえないのみでなく、独立に関する行動もなかったとはいえない。しかしながら一方、被申請人総本部としては、年間同被申請人に対して申請人から振込まれるロイヤリティの額に比すれば微々たる額の右ノウハウ使用料であるから経営主体の変更について適式な報告のないことを発見した段階で申請人にこれを促すなどの働きかけさえすれば、前記の如き義務の懈怠は発生しなかったと認められるにかかわらず、突如としてこれを盾に更新を拒絶するに及んだことは信頼関係の強く妥当する継続的契約たる本件契約の性質に照らせば必ずしも当を得たものとはいい難い。3で認定した申請人代表者の行動は予期せぬ事態に遭遇して無計画に行われたものとして右被申請人総本部の意思表示に対する判断を左右するものとは認められない。

以上の次第であるから被申請人総本部には本件フランチャイズ契約を継続し難いやむをえざる事由が未だ存するものとは認め難く、したがって抗弁1(二)は採用することができないのみならず、前記事情を総合勘案すれば申請人の行為は信頼関係を破壊する行為とも認められないので抗弁2も採用することができない。

第二保全の必要

《証拠省略》によれば申請人主張にかかる保全の必要はすべて一応認めることができる。

第三結び

よって、申請人の本件仮処分申請に対し、相当額の保証を立てしめ期限付で認容した本件仮処分決定を認可することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 園田秀樹 渡邉和義)

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